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ハイスペック古泉8

やっと終わったわ!

古キョン不倫話8話↓

 2ヶ月が過ぎ、涼宮さんから絵葉書が届いた。鮮明な印刷で壮観な海を拝見に、涼宮さんを中央に、両隣には白人男性と黒人女性がが一人ずつ写っていた。涼宮さんは現在、世界的な福祉団体に入り、色々な国を飛び回っていて、写真の二人は中でも親しい二人らしい。
 僕たちはベッドの中で、裸のまま葉書を読んでいた。一緒に暮らして、毎日ではないけれど沢山セックスをして、休日には出掛けてみたりして。これ以上は、飽和状態を保てなくなってしまう。
「ほお…ハルヒらしいな」
「おや?」
「どうした?」
「見て下さい、これ。PSの所」
「ん…長門から何か手紙が来るのか」
 『近い内に有希から便りが行くと思うから宜しくね!』とそこには書いてあった。長門さん。一体何なのか心当たりもない。日本に、しかも同じ県にいる筈の長門さんからわざわざ郵便で来るという事は書類系か何かなのだろう。
 それでもすぐに気にならなくなって、僕たちはまたセックスに没頭した。彼はセックスを重ねる毎に僕を誘惑する手法を覚え、これ見よがしに実践してくるものだから僕も吸い取られないように彼を何度も犯すように抱いた。

「郵便…長門さんからだ」
 予定より早く仕事から帰って、郵便受けに封筒が入ってるのを見つけた。そのままになっているのだから、彼はまだ帰っていないのだろう。一般的な封筒より少し大きめなそれは事務的な雰囲気で、それが長門さんだからなのかそういう内容だからなのか分かりかねた。
 宛名が僕たち二人になっているから先に開けてしまうのも野暮だろうと、とりあえずはデスクに置いておく事にした。
 そう言えば暫く長門さんに会っていない。最後に会ったのは涼宮さんと彼が結婚してから5人で遠出をした時だ。朝比奈さんともそれから連絡を取っていない。未来にいる彼女と連絡を取る手段が無いわけではない(意外にも普通に電話もメールも繋がる)けれど、これと言って特別な用事も無かった。僕たちの事は涼宮さんから話が行っているだろうし、彼女は僕と長門さんを少しばかり苦手視していたからわざわざ僕から連絡する事もない。
「古泉、先に帰ってたのか」
 気付いたら彼が鍵を開けて帰って来ていた。僕はどれだけ瞑想に浸っていたのだろう。
 彼は背広のジャケットだけ脱ぎ、ネクタイを緩めて僕の手元を覗いた。
「長門から…?ああ、この前ハルヒが言ってたやつか」
「開封してみますね」
 厳重に糊付けしてあったため、鋏で開封する。何枚かで重なった紙が二束あり、長門さんからの手紙だと思われる方を先に開いた。そこには長門さんらしい簡素な、それでも昔よりはずっと心の籠もった挨拶がしたためられていた。それから、それ、から
「…養、子…?」
──涼宮ハルヒの提案。二人のどちらかが里親登録をして、養子を取るのはどうか、と。彼女は、あなた達の両親に形だけでも孫を、と考えている。
 日本だけでなく、他の国の様々な養子制度についての説明が、綺麗過ぎる位の楷書体で至極分かりやすく記述されていた。頭が痛くなって来た。つい、手紙を取り落としてしまった。
「大丈夫か、古泉?」
「すい、ません…」
 心臓がいたい。肺が詰まって、気道が確保出来ない。鼓動がどんどんと速くなって、真っ直ぐとした姿勢が保てなくなる。
 こども。
 よく、分からない。愛し方が、分からない。
「しっかりしろ、おい古泉…」
「涼宮さんや長門さんが、僕たちの…為を思って、こういった事をしてくれているのは、分かっているんです…それでも、」
 彼が背中をさすってくれている。僕は前屈みで口を抑えていなければ、吐きそうな気分だった。何を吐くと言うんだ、昼はあまり食べていないのに。たすけて、おかあさ、──誰だ?
「古泉落ち着け、焦らなくて良いから」
「はあ…は、あ、はあ…」
「落ち着いて、深呼吸をしろ。ん?」
 彼が、僕がデスクに置いたままの封筒から、一枚の小さなメモを取り出した。何か、別件のものらしい。
「住所…?」
 彼はそのメモをふと裏返し、驚いた表情を見せた。
「古泉、これ…」
「…!これ、は僕の、両親の名前、です」
 メモには涼宮さんの文字で僕の両親の氏名と、表には彼らのものと思われる住所が記されていた。昔僕が普通のこどもだった頃に住んでいた場所とは全く違う県の、全く違う場所。当たり前だ。頭のおかしくなった僕が居なくなったからと言ってあの場所に、ずっと住んでいるはずがない。
 今更、どうしろと言うんだ。
「明日、行ってみよう」
「何故今更、会えるはずもないのに…」
「お前がしあわせを怖がってる根源は、これだろう?明日、終わりにして来よう。養子とかそういう事は、それから考えれば良い」
 メリーゴーランドだ。物凄い速さで廻り巡り、僕の内臓が追いつかない。
「でも、」
「もし、お前の親御さんに会って、どんな結果になっても俺はお前を見捨てたりしない」
 僕は彼を抱き締めて、何も言わずに涙を流した。

 翌日、僕は今までになく憂鬱な気分で目を覚ました。それなのに何処か高揚していて、吐き気がうっすらと残っている。
 何を着て行こう。僕が家を出た時と同じ、中学校の制服を着てやろうかという考えが脳を過ぎったけれど、それには僕は年を取りすぎた。無難にジャケットにしよう。今までも、そんな格好をしていればそれなりな見てくれにはなった。
 十年以上も会っていない僕を見て、どんな反応をするのか。それ以前に僕だと気づくのか。
 何と、恨み言を言ってやろうか。
「もう用意したのか」
 彼が目を擦りながら起きて来て、眠そうな声で言った。昨夜も、彼を抱いてしまったから仕方ない。そうしなければ、何か、分裂してしまいそうだった。
「今度は、俺もちゃんとした格好していかないとな」
「あなた、楽しんでいませんか?」
「ある意味お前の新たな門出になるんだ、当たり前だろ」
 その笑みは、昔妹さんによく見せていたものに似ている。
「俺も責任、持たないとな。お前があんなに土下座までしたんだ。来る所まで来ちまったんだし俺もお前の人生に責任を持つよ、古泉」
「僕、は」
 腕時計を、両親が中学校の入学祝いに買ってくれた腕時計をつけている方の手に暖かいものが触れた。彼の手。高校一年生の時に、初めて触れた。
「もしさ、親御さんがお前に酷い反応とかしたら、お前落ち込むだろ。そうしたらどこかの海にでも行こうぜ。その位の覚悟は、ある」
「その時は、海外の綺麗な海が良いですね。一度、涼宮さんに会っておきたい」
 しあわせだ。この部屋を出たら、どうなるか分からないけれど、どちらに転ぼうと確かに僕はしあわせだ。
 だから最後にもう一度だけ、
「ありがとう、──」
 彼の名前を呼んだ。


おわり



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