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ハイスペック古泉6

古キョン不倫話六話目↓
まだ終わらない…/(^o^)\

「ねえ、もう良いのよ古泉君、もう、良いのよ?」
 彼女が微笑みながら、僕にそう言う意図を僕は理解しかねた。直ぐにでもこの場から走り去りたい衝動を抑え込むのにやっとで、表情を作る余裕は無かった。話すにあたって出来る事ならばいっそ椅子に縛り付けてくれた方が腹も括れそうだ。
「それにね、あたし古泉君がキョンとそうなって無くても、別れるつもりだったの」
 彼と僕が何も言わずに、怪訝な顔をしていると涼宮さんは一息ついてから話し始めた。
「主婦やってみて分かったのよ。あたしの居場所はここじゃないなって、それでね、あたし世界中に行きたいの。飛び回りたいのよ」
「…」
「でもこれだけは言いたいんだけど、キョンの事は大切なパートナーと思ってるわ。だって、もし子供が出来たらちゃんと母親として育てるつもりはあったもの」
 ただそれに、古泉君とキョンの事が都合良く起きたから便乗しただけ、と涼宮さんが言った。実際それに含む所も虚偽も存在しないようには見受けられる。彼は涼宮さんが嘘を吐く時、必ず一度は目を合わせない瞬間があるのだと言っていた。
 彼女は真っ直ぐに僕を、見ている。
「涼宮さん、僕は、」
「あたしね、この前荒川さんに連絡を取ってみたのよ。随分久しぶりだったけど、荒川さんまだまだ若いわね。それで、古泉君の事、聞いたの。肝心な部分は大分はぐらかされちゃったけど、お母さんとお父さんの事とか、聞いたわ」
 なにもいえない。彼女がそんな事までしていたなんて思いもよらなかったし、荒川さんも彼女に何を話したのだろう。はぐらかしたと言っていたからまさか機関の事は言っていないのだとは分かる。
 僕の母親は優しい人で、ひどく真面目な人だったから、僕が超能力者となった日から日を追うごとにヒステリックになり、僕の話を少しも聞こうとしなかった。それでも僕が話をしようとすると、髪の毛をかきむしって物を投げつけてきた。僕はそれを決して避けなかった。ある日テレビのリモコンが顔に当たって目の上が赤黒く腫れたのに見かねて森さんが家にやって来た時は森さんを、僕を非行に誑かしているのだと喚き立て、僕は必死に森さんに失礼を詫びた(当時の僕は森さんにも反抗的な態度を取っていたけれど流石に謝るべきだと思った)のを覚えている。
 父は振る舞いのきちんとした人でとても博識だった。何の仕事をしていたのかよく思い出せないけれど、僕が小学六年生の誕生日に望遠鏡を買ってもらって、その夏は毎晩父に星座を見せて欲しいとしきりにねだり、父は誰も知らないような星座の名前も教えてくれた。その父は、母の変貌を見てから静かに、お母さんをこれ以上困らせるなら出て行きなさい、とだけ言って森さんや荒川さんに僕を引き渡した。
 それから両親には会っていない。母が望んでいた“まとも”な生活を送れる今も、一度だって連絡は無い。
 僕は無意味な焦燥感を覚えて、テーブルに並んだ手をつけられる事のないご馳走を眺め回していた。おかあさん。おかあさんも昔作ってくれた、
「古泉君の親御さんにはまだ連絡が取れなかったから、とりあえずキョンのお義母さんとお義父さんの所に行って事情を話したの」
「お前…っ、なに、言ったんだよ」
 彼は少し憔悴した表情を見せた。
「別にあんたが男と不倫してました、なんて言い方してないわよ」
 涼宮さんは、自分が海外に行こうと思っている事、彼が自分以外に好きな人間がいる事、それを自分も応援したいと考えている事、彼の両親にも認めてあげて欲しいという事を話したと言う。普通に考えれば信じられないけれど、それをやってのけるのが涼宮さんだ。
「それで…それでうちの親は?」
「そりゃあ最初は戸惑ってたわよ。でも最後には納得してくれたわ、あたしの聡明かつ賢明な言葉のおかげね」
 涼宮さんが愉快そうに笑った。彼は、それを聞いて安堵した息を洩らし、椅子の背もたれに体をうずめた。
「さてと、これで話は終わり!!せっかくあたしが作ったんだから料理食べましょ!!」
「…じゃあその前にトイレ行かせてくれ」
 彼が用を足しに行った。一瞬の沈黙。その後に、涼宮さんが口を開いた。
「あたしと古泉君の事は、お互い無かった事にしましょう。それは、あたしの我が儘」
「僕と涼宮さんの間には、なにもありませんでしたよ?」
「え?」
「僕の家にあるコンドームもローションも彼とセックスをするために僕が一人で買いに行ったもので、涼宮さんは知らないものです」
「そうね、そうだったわね」
 涼宮さんはありがとう、とだけ言って大皿に乗ったピザを一切れ彼女の皿に移した。古泉君も食べたら。僕は突如空腹を感じ、同じピザを三切れも自分の皿によそった。
 彼が戻ってくると、僕の皿を見て不審なものを見る目で僕の顔を見た。あなたもどうぞ、と勧めたらお前は作っていないだろと言われてしまった。確かに。
「今日は色々おめでたい事があるんだけどとりあえずは古泉君の誕生日におめでとう!人類が望んだあたしの世界進出と、古泉君の恋愛成就パーティーは来週やりましょ。勿論有希とみくるちゃんも呼ぶわ」
「あの…すみませんでした、それから、ありがとうございます」
 僕が頭を下げるのを涼宮さんが止めた。彼も穏やかな顔をしていた。
 ひとまずはこの空腹を満たすのに専念しよう。そして来週までに、彼の実家にお邪魔して土下座をする予定を立てなくてはいけない。殴られたって、今はきっと笑っていられる。


つづく



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