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ハイスペック古泉7

古キョン不倫話の七話↓


 僕がまるで、赤紙を受け取ってしまった学生のような悲壮感漂う顔をしているのだと彼は正反対の、それは愉快で仕方がないとでも言いたげに笑って指摘した。
「なんでそんなガチガチになってんだよ」
「だって…あなたの一生を決めてしまいかねない事ですよ?はあ…」
 4日にあの話をして、次の日涼宮さんと彼は離婚届を西宮市役所に提出した。そしてその週の土曜日に、僕は彼を自宅に呼んでから彼の実家に行く支度をしている。彼は実家に帰るだけだから(いくらそれが離婚して男を連れて帰るためとは言え)、ラフな格好で良いだろうけれど、僕はともすれば魅力的な女性と結ばれ、まともに結婚生活を送っていた彼を寝取ったゲイとレッテルを貼られても仕方がない訳で、それなりに支度をしなくては、いくら彼のご両親が納得したと涼宮さんが言っても示しがつかない。
 彼は、僕がデスクの上に散らかしっぱなしにしていた小分けのコンドームを袋のまま弄りながら携帯の画面を眺めている。
「お待たせしました…」
「ああ、行くか。どっちの車で行く?」
「僕が車を出しますよ」
「お前のプリウスに乗るのも久し振りだな。ん、」
 僕の方に近付いて、彼は僕のジャケットの襟を掴んだ。
「ネクタイ、曲がってる」
 ネクタイを直してくれる彼の手つきが、酷く好きかもしれない。こうして僕は、きっと次第にだらしない人間になっていくに違いない。いつかは副団長で優等生の古泉一樹など見る影もなく、昔居た甘ったれて弱虫で臆病な古泉一樹が顔を現すのだろう。
 僕は車と家のキーをポケットに入れ、財布と彼の家へ持って行く手土産を手にとり革靴を履いた。戸締まりをきちんと済ませた事を確認して、家の中を見回せば、何だかとても心が整然とする。
 慣れた様子で助手席に乗り込む彼。彼を抱いた朝は、こうして僕が車を出して彼を職場まで送り届けるのだった。
「何で車黒にしたんだよ。お前何か白かシルバー買ってそうなのに」
「自分の選択の自由で買えましたから、好きな黒にしました。僕、これでも黒だとか濃い色の方が好きなんですよ」
「そういえば高校ん時どぎつい赤の携帯使ってたな。だが黒だと汚れが目立たないか?」
「洗車しに行くの、好きなんです」
「何で俺と被ってんだよーお前が行く時に一緒に行かないといけないだろ」
 顔を背ける彼が可愛らしい。どうしよう。ずっと前からこんな関係だったのではないかと、おこがましい錯覚までしてしまう。胸焼けが、する。氷鎖はきっとまだ切れていないのに。

 僕のマンションから彼の実家までは車で15分の所にある。高校生の頃から何度もお邪魔したそこには、近所の他の一軒家よりもアットホームさを醸し出し、僕にとっては大層な心地よさと歯痒いこそばゆさのアンビバレンスを提供する。
 駐車場には彼のご両親の車が二台停まっているからそこに車を頭から入って車体の中程まで入れて停めた。僕がトランクから手土産を取り出している内に彼は家の呼び鈴を鳴らしてしまった。中から出て来たのは彼のお母様で(妹さんも確かもう二十歳位だ、家にいなくても不思議ではない)、僕と彼の姿を認めると柔らかい態度で家に迎え入れてくれた。
「ただいまー、親父は?」
「お父さんならリビングよ。お母様もコーヒー煎れたら行くから二人は先に行ってて」
「お邪魔致します」
 リビングのL字型のソファには彼のお父様が座っている。昔に二、三度会った事がある。確かに年は召されたけれど相変わらず平凡で温和そうな男性だ。彼にはお父様の面影がある。挨拶をした所座るように促されたので、彼と隣り合って、お父様とは違う辺の方に座った。暫し沈黙の後、お母様がお盆を持って戻って来た。彼女はお父様の隣に座り、コーヒーカップを4人の前に並べてから腰を据えた。
 一般家庭だ。
 年を取っても、たまに会った家族でも、それは紛れもない家庭の有り様で、そこに僕はいらない。
「申し訳、ありませんでした」
 僕は誰かが何かを言う前に、ソファから腰を上げ、フローリングの上でご両親に土下座をした。頭を床に付けて出来る限りに低くなる。彼らの顔は見えない。見えなくていい。
「僕が、全ていけないんです。息子さんも、涼宮さんも、僕が、」
「古泉君…」
「ご両親が仰れば僕は二度と彼の前に現れません」
「古泉!」
 彼が咎める声音で叫んだ。
「けれど、僕は本気で彼を、愛しています」
 誰かが唾を嚥下する音だけが聞こえた。
 意気地無しで、後ろ向きな僕の恐らく最後の告白。せめて彼にだけは届いていれば、良い。始めからしあわせになるなど出来ないのだと、諦めていた。やっと感じられるようになったしあわせが、僕には有り余るものに思えて、それをどうして良いか分からない。きっと一生、余剰していく。しあわせは、貯蓄出来るものなのだろうか。
「ハルヒさんが、先日古泉君の話をしに来たんだ」
 彼のお父様が、僕を見て言った。やはり、目が似ている。目の奥の色が似ている。
「きみは、ずっと独りだったんだね」
 彼は、彼らは、純粋だ。人のしあわせも妬み僻む事も、かなしみに同情を乞う事も知らない。知らないから、他人に敏感でいる事が出来る。何につけても僕とは違う。
「うちの息子は、きみの真っ当なしあわせに相応しいかい?」
 真っ当なしあわせ。それが一般論のテンプレート基準のしあわせという意味でない位僕にも理解出来る。あの泥水の如き毎日から僕を引き上げてくれたのは紛れもない彼だ。
「僕は十分過ぎる程のしあわせを、彼から頂いています」
「息子は頭が特別良いわけでもないし、めぼしい特技があるわけじゃあない。良くも悪くも平凡だ。それでも、人一人をしあわせに出来る事を、誇りに思うよ」
「ありがとう、ございます…」
 僕はもう一度床に頭を付けて、ご両親に礼を言った。

 その日は彼と二人、外で食事をして早めに僕の家に向かった。
「俺、あそこのマンション引き払ってこっち来ようかな」
「是非そうして頂けると僕も嬉しいです。この部屋も、一人だと余ってしまいますし」
「なら次の休みにそうするわ。忙しくなるな」
 玄関先で彼が僕に抱きついてきたので、彼の頭を掴んでキスをした。それだけで、勃起してしまいそうな位の官能が僕の全身の神経を巡る。項から薫る少し汗ばんだ臭いでさえ興奮材料の一つで、僕は彼を連れてベッドに急いだ。
 玄関でも良いのに、と彼は不満げな目をしたけれど、玄関ではセックスを朝まで出来ない。
「古泉、お前、しあわせか?」
「しあわせですよ。しあわせ過ぎて、」
 しあわせが、どうしようもなく、怖い。


つづく


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